2015年09月08日

【二日に一本てのひら百合】2015.09.08 いちばんになりたい



 一緒に暮らしてる恋人がいるという瀬奈さんに口説かれた時はびっくりした。不倫相手なんて嫌だと言ったけど、そういうんじゃないと言われた。瀬奈さんの彼女さん(ユズキさんと言うらしい)は、瀬奈さんが他の誰かとデートをしようとキスをしようとセックスをしようと恋をしようと気にしない、らしい。恋人なのに? と私はとても驚いた。それって本当に恋人なんだろうかと思った。私のそれまでの常識では全然考えられないことだった。
 とはいえ私もそんなに堅いほうじゃなかったし、瀬奈さんの見た目や声や雰囲気が好みだったので、問題がないならとOKしてしまった。セフレ以上恋人未満みたいなちょっと軽い相手がいるのもいいかなと思ったのだ。
 なのに付き合っていくうちに、私はどんどん瀬奈さんのことが好きになっていった。セフレ以上恋人未満なんかじゃなく、恋人以上の存在になりたいと思った。
 でも瀬奈さんにはユズキさんがいる。私は瀬奈さんの一番にはなれないんだ。
 私は気持ちが暗くなる日が増えて、この関係ももうあまり長くないだろうなと思っていた。そんな私に瀬奈さんが、
「綾ちゃん、うちこない? ユズキがご飯作ってくれるって」
 と言ってきた。私は瀬奈さんに口説かれたときくらいびっくりした。私はまだユズキさんに会ったこともなかった、写真くらいは見せてもらっていたけど。
 正直言って気が進まなかった。穏やかな気持ちで三人でごはんなんか食べられそうにない。
「ユズキはさ、料理めちゃ上手いんだよ。綾ちゃんが好きなエビカツも作れるしすごい美味しい。エビカツって家で一から作れるんだね、知らなかった私」
 私は少し心が動いたけど、食べ物に釣られたりしないですバカにしないでとちょっと怒った。瀬奈さんはごめんと素直に謝ってきた。
 それでまた私はふらっと、それこそ瀬奈さんに口説かれてOKしてしまったときのようにふらっと、会ってもいいかなと思ってしまった。私は相当ふらふらしてるんだな。
「あのね、綾ちゃんが嫌なら嫌ってちゃんと言ってくれていいんだ。でももしも、もしもだよ、三人で仲良くできたら嬉しいなって」
 私のふらつきを見抜いたらしい瀬奈さんが、はにかみながらそんな都合のいいことを言った。あり得ないと私は思った。
 あり得ないと思ったけど、でも何言ってるんだこいつと思った瀬奈さんの口説きをOKしてしまったみたいに、軽い気持ちで付き合った瀬奈さんをこんなに好きになってしまったみたいに、自分の気持ちがどうなるかなんてどうせわかんないな、とも、思ってしまったんだ。

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posted by 伊西殻 at 19:04| 【二日に一本てのひら百合】