2015年08月31日

【二日に一本てのひら百合】2015.08.31 試着室のおなか



 わたしは試着室の全身鏡の前で思い切り顔を歪める。好きなブランドの新作ビキニ。カラフルでブラはフリルたっぷりですごくかわいい。好みだしわたしに合う色柄デザインだと思う。本当なら。本当なら。
 問題はわたしのおなかだ。
 他の部分はそんなに問題ない、二の腕がちょっとぽよっとしてるけど、でもこのくらい許容範囲だと思う。でも、この、おなかは……。
「思ったよりやばい……」
 水着にのっかった肉を両手でつまむ。まず余裕でつまめるのがやばい。ほぼ掴めるに近いのがとてもやばい。もともと気にはなってた、けど、ここまでだっけ……。
「うう……優樹菜ー」
 わたしは思わず試着室の外に声で助けを求める。
『どした』
 外から優樹菜の声だけが返ってくる。
「ちょっと来てぇ」
 わたしが具体的なヘルプを伝えた結果、試着室内の人口が二人になる。
「あぁ……」
 優樹菜は腹肉を掴んで表情だけで泣いているわたしを見てすぐにすべてを察し、鏡を眺めて曖昧な声を出す。
「ねぇ、やばいよねぇ」
「やばいと思ったから呼んだんじゃん?」
 優樹菜はこういうとき、全然大丈夫だよぉ、と言ってくれるタイプではない。
「どうしよう……」
「……アタシは全然気にしないけどね」
 試着室の壁に肘をついて優樹菜が言う。優樹菜がそんなこと気にしないことは、わたしも知ってる。
 優樹菜は背が高くて脚が長くて顔が小さくてもちろん細くてとてもカッコイイ。日本人なのにサングラスが似合ってパーカー羽織って長い金髪テキトーに結んでるだけで全然サマになる。わたしはというと背は普通で背のわりには脚は長いほうだと思うけどでもそれなりで頭が大きめで、肉付きに関してはこんな感じで。お化粧頑張って服頑張って靴頑張って髪の毛巻いて、やっとなんとか人並みおしゃれさんになれる。だからもともと、並ぶとちょっとコンプレックスを刺激される。
「でも、アンタに気にするなとは言えないからね」
 わたしのちょっとずれた肩紐を指で摘んで直してくれながら優樹菜が言う。
「うう……わたし、そこで『そんなこと気にするな』って言わないでいてくれる優樹菜が好きだよ」
「そうだね。ダイエットする? アタシの行ってるジム、アンタも行く?」
「する……行く。でも海は間に合わないね……」
 わたしたちは昨日、そういえば長いこと海って行ってないね、そうだね、じゃあ週末行こっか、という話をして、土曜日の今日水着を買いに来た。そして海に明日行くつもりだった。
「まーいいんじゃない、海は来年で。来年まだ付き合ってたらの話だけど」
「わたし、そこで『来年絶対一緒に行こうね約束だよ』ってキラキラ言わない優樹菜が好きだよ……」
「アタシもアンタの、そうやっていちいち具体的に好き好き言うトコ好きだよ」
 優樹菜はサングラス越しに笑って、わたしの着替えを手伝ってくれる。
「痩せれたらいいねぇ」
「ちゃんと痩せるよぉーバカぁー」
 真面目顔の優樹菜と泣き顔のわたし、ふたりでわたしのおなかを掴む。
 来年もこうしてこの手がここにあればいいけど、この肉だけは取り除いてみせる。

タグ:創作 百合
posted by 伊西殻 at 21:38| 【二日に一本てのひら百合】