2015年08月27日

【二日に一本てのひら百合】2015.08.27 水蜜桃



 水蜜桃の汁がご主人様の手首を伝い落ちる。ご主人様の目が、ばさばさの睫毛の影が落ちる瞳が私にそれを舐めろと言うので、私は跪いて舌を伸ばす。骨と血管の浮き出る細い腕。なのに折れそうなか弱さなど微塵も感じさせないそこに、私は粘膜を触れさせる。
 桃の味は嫌い。蜜のたっぷり滴る熟れた桃は特に嫌い。でも私は私の好き嫌いによって、私の意思によって、なにかを決める権利を持たない。そのことが唯一、私が掲げることのできる権利だ。すべてを委ねすべてに従う私でいられることが。
 私はご主人様の肘から手に向かって舌を這わせる。手首の茎状突起の凹凸は特に丁寧に舐めとる。えぐみすら感じる熟れ過ぎた水蜜桃の甘い汁。吐き出したいがそれは許されないし、私のプライドもそれを許さない。
 必死で舐め清める私の顔を見下ろして、ご主人様が唇を少しだけ緩ませる。
「幸せそうな顔」
 私は彼女に仕えるために自分の意思を捨てたわけではなく、私の意思を捨てさせてくれる存在がただ唯一彼女だったのだ。
 ご主人様の手はまだ齧りかけの桃を掴んでいて、果肉に埋める白い指が腐ったような蜜を私の舌へ滴らせ続けてくださる。それが私の不幸であり幸福である。

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posted by 伊西殻 at 19:36| 【二日に一本てのひら百合】