2015年08月21日

【二日に一本てのひら百合】2015.08.21 三人寄せ飲み



「ビール何本冷えてるの?」皿を並べる音がする。
「缶九本」箸を置く音が三度する。
「少なくない?」テレビからバラエティ番組の騒々しい気配。
「三人だよ、そんなもんでしょ。私はビールなんて一缶あれば充分だし。芋焼酎さえあればいいし」中身の詰まった缶がテーブルに置かれる音が三回ともう少し。
「ウチもビールはそーでもないからワナナが飲んでいいよ。それよりツマミが全然少ないじゃん。お腹にたまるものなさすぎ。塩辛とナムルだけって」爪がカチカチと硬いところを叩く音がする。
「あたしは箸を汚さないのが自慢の酒飲みですから」早々に缶を開ける音と炭酸が鋭く小さく抜ける音が一度する。
「なにそれ?」缶を開ける音が続く。
「こいつ落語とか聴き始めてんだよ最近。おかげで江戸っ子ごっことか寒いこともよくやって……」缶を開ける音が続く。
「えーここでお笑いを一席!」崩していた脚を正すような衣擦れの音がする。
「素人芸なんてやめて本当にやめて」飲み下しに絶え間なく鳴る喉の音。
「みうってさぁ、なんでこんなヤツのこと好きなの?」小さなため息。
「ミツこそなんでこんなヤツのこと好きなのさ」呆れたような笑い声。
「あたしは二人のことも自分のことも大好きさー。でぇ好きさ。あたしらめっちゃ上手くやれててすごいよね。すごくない? こいつはすげぇってなモンだよ」冷たい炭酸を飲み干したあとの快楽の大息、その後に言葉。
「私らが我慢してるからだよ色々」細くて硬い箸先が皿をつつく澄んだ音がする。
「ホントにねー」固い野菜を噛み砕く音がする。
「イロとイロの情けが深くてあたしァ幸せモンだ」缶を開ける音がする。
「ウザいノリ続けるんだったらせめてもうちょっと上手いこと言わないと別れるよ」テレビから派手な効果音が被る。
「ホント」テレビからコミカルな音楽が被る。
「ごめんなさい、がんばる」
 声は少しだけしょんぼりとして、そこに二つの穏やかな笑いの吐息が被る。

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posted by 伊西殻 at 19:03| 【二日に一本てのひら百合】