2015年08月11日

【二日に一本てのひら百合】2015.08.11 見えない行かない花火大会



 八月の浅い夜、天井の向こう、屋上の向こう、空の向こうで鈍く響く重い音がする。ごろごろ、ぼんぼん、どんどん、どれともつかない低い音がする。
「あれって雷?」
 リビングにいるわたしはエラーチェック中のデスクトップパソコンを前にして、焦った気持ちで彼女に聞く。
「さー。花火じゃないの?」
 部屋の隅で寝転がってスマホを弄る彼女が気のない態度で返事をよこす。彼女はパソコンをまったく使わないので、このハラハラ感はぜんぜん伝わらない。
「ちょっと天気予報見てよ」
 エラーチェックは運悪く始まったばかりで、もう後戻りできないのだ、わたしは。
「やだー今手離せない」
 彼女はスマホの画面から顔もあげない。わたしのスマホは充電中で自分の部屋(ほとんどただの寝室)に置いてきている、取りに行くのはめんどうくさい。どっちもどっちだ、知っている。
「どうせねこあつめてるだけなんじゃん! 手離せないようなやつじゃないでしょ」
「今アルバムの厳選してるんだよ、アプリ一瞬でも閉じたらリロードされちゃうもん、集中力きれる」
「もういいよバカ」
 わたしは腹を立てながら諦めて立ち上がる。外を見ても雨は降っていないが雷についてはよくわからないし花火が見えるわけでもないので自分の部屋に戻る。短い短いスマホの充電コードを引っこ抜いて天気予報を見る。注意報の類は出ていない。花火大会の情報……は、どこでどうやって調べればいいのかよくわからなかったので、試しにツイッターを検索してみる。
 花火大会、最寄りの地名、祭、浴衣、などなど。
 いろいろ探ってみると、確かに大きな花火大会があるらしかった。中止という話題も見かけないし、開催されているなら雷が鳴っているということもないだろう。安心してリビングに戻る。彼女は変わらぬ姿勢でスマホを弄っている。
「たぶん花火だった」
 一応彼女に声をかけ、わたしはまだまだ淡々とエラーチェックをしているパソコンの前に座る。
「なんか花火の綺麗なアプリ、いいのないかなー」
 そう言ってスマホの画面を弾く、アルバムの厳選作業は終わったらしい彼女。
「ねえ、それより浴衣着てみたくない?」
 黒背景白文字のモニタを眺めながら、さっき検索で見かけた浴衣カップルの自撮り写真を思い浮かべるわたし。
「やだー暑いしめんどくさい」
 わたしたちは一見して自分のことしか考えてないし、相手の話も聞いてない。
 どっちもどっちだ、知っている。それでも、もう三回目の夏なんだ。

タグ:創作 百合
posted by 伊西殻 at 20:33| 【二日に一本てのひら百合】